眼球の内部には房水という透明な水が循環しており、眼球内に栄養を与えています。房水は虹彩の裏にある毛様体突起から産出され、虹彩と角膜の間の隅角にある線維柱帯から排泄されます。この眼内の房水の圧を『眼圧』といいます。眼圧により視神経の付け根である視神経乳頭が圧迫されて視神経がへこみ(陥凹)視神経を走行する網膜の神経線維がダメージを受けて、その線維に相当する部分の視野が欠損する病態を緑内障といいます。
眼圧の正常値は10~21mmHgといわれていますが、緑内障の患者様は必ずしも眼圧が高い訳ではありません。日本人の場合、眼圧が正常値でも視野欠損を生じる『正常眼圧緑内障』の方が約80%を占めています。
では何故、眼圧が正常なのに緑内障を発症するのでしょうか。眼圧が正常であっても、視神経の支持組織が眼圧に負けて弱くなるために、乳頭陥凹を生じて緑内障を発症するためです。
左眼)正常眼底
左眼)正常視野
緑内障は開放隅角緑内障と狭隅角緑内障の2種類に大きく分類されます。開放隅角緑内障には正常眼圧緑内障も含まれます。隅角の角度が広いにも関わらず、線維柱帯の房水の排出効率が悪く眼圧が上昇したり、視神経乳頭の支持組織が弱いために緑内障を来す病態を開放隅角緑内障といいます。一方、眼軸という眼球の全長が短かったり、進行して膨化した白内障により隅角が狭くなったために発症する緑内障を狭隅角緑内障といいます。狭隅角緑内障では急激に眼圧が上昇する急性緑内障発作を発症する場合があります。
また眼圧が上昇する原因によって緑内障はさらに細かく分類されます。
緑内障の初期症状として最も多くみられるのが『目の疲れ』すなわち『眼精疲労』です。初期の緑内障では自覚的に視野欠損を感じることはありません。逆にかなり末期の緑内障にならなければ視野欠損や視力低下などの自覚症状は殆どありません。そのため早期の詳しい検査や的確な治療が必要となります。
緑内障の有無を調べる眼科的検査としては視力検査、眼圧検査、眼科医による診察、光干渉断層撮影(以下、OCT)による視神経乳頭および網膜厚検査、精密視野検査があります。全ての患者様に視野検査が必要な訳ではなく、緑内障を発症している可能性がある場合に視野検査を行います。以上の眼科的諸検査と眼圧の数値を統合して治療方針を決定します。
また視野検査が正常な場合でも眼圧が正常値を超えており、視神経乳頭陥凹が強く、将来的に緑内障を発症する可能性がある場合には、予防的に点眼薬を使用する場合があります。
緑内障の定期的な診療としては1ヶ月おきに定期的な眼圧測定、眼科的診察を行うことが望ましいです。
視野検査およびOCTによる乳頭解析は、その患者様の病状に合わせて3ヶ月から1年おきに施行します。
初期緑内障
左眼)乳頭OCT所見
赤色の部分の網膜がダメージを受けて
緑内障を発症している視神経線維層欠損です
初期緑内障
左眼)視野
末期緑内障
右眼)眼底
末期緑内障
右眼)視野
末期緑内障
左眼)眼底
末期緑内障
左眼)視野
緑内障に対する治療は緑内障の分類により異なります。開放隅角緑内障に対する主な治療は眼圧降下剤の点眼です。この20年間で眼圧降下剤の種類が増えて、治療効果も大きくなってきたため、現在は殆どの患者様が点眼薬のみでの治療が可能になり、以前と比較して手術が必要な症例は非常に少なくなりました。
しかし眼圧降下剤点眼の使用により眼圧が下がらなかったり、眼圧が正常でも視野欠損が進行する場合には手術による加療が必要になります。
狭隅角緑内障に対する主な治療は眼圧降下剤の使用、レーザー光線により虹彩に房水の通り道を開ける虹彩光凝固術および白内障手術です。虹彩光凝固術は術後、10年ほど経過すると角膜を透明に維持する細胞である角膜内皮が減少し、水疱性角膜症を発症する場合があり角膜内皮移植が必要となります。そのため現在は白内障手術が主な治療法として選択されています。